2021/9/17開催 JBpress DX Week 2021 <秋> 第5回 リテールDXフォーラム「カインズ、ベイシアのデジタル戦略から紐解くリテールDXとは?」|セミナーレポート
小売業のDXをテーマに2021年9月17日にオンラインで開催されたJBpress DX Week 2021 <秋>「第5回 リテールDXフォーラム」に、ランチェスターの代表・田代が登壇しました。
「カインズ、ベイシアのデジタル戦略から紐解くリテールDXとは?」と題し、スーパーマーケット「ベイシア」やホームセンター「カインズ」などを展開するベイシアグループの竹永 靖さんをゲストに迎え、アプリの効果的な活用方法やECサイトのあり方、店舗とオンラインの連携などについて語り合いました。
リテール業界におけるデジタル戦略の最前線、そしてアプリを使って顧客接点をつくり出す意義とはーー。
登壇者
売上高1兆円、2200店超のベイシアグループ
デジタル戦略のキーマンが考えるDXの価値
田代 みなさん、こんにちは。本日は、ベイシア流通技術研究所の竹永さんと一緒に、ベイシアグループがどのようにDXを進めているのか、アプリやECをどのように捉えて活用されているのか、そして運用における苦労話や今後の期待値などについてうかがっていきたいと思います。
それでは竹永さん、最初にご自身とベイシアグループについて簡単にご紹介いただけますか。
竹永さん(以下敬称略) 私は2010年にベイシアグループに加わりました。それ以前から長く小売業に携わっており、もう25年ほどになります。
通販を主戦場に最初はバイヤーから入り、現在はDXやPM(プロジェクトマネジメント)を担っています。
その間、気がつけばiPhoneは3Gから12にまで進化しましたが、急速なデジタル革新を間近で見られたのはとても幸せなことです。
ベイシアグループは現在、グループ全体で2200店を超える店舗を抱えています。売上高はおかげさまで、昨年11月に1兆円を突破しました。
中核のホームセンター「カインズ」は225店舗(2021年2月末現在)、スーパーマーケットの「ベイシア」は北関東を中心に139店舗(2021年2月末現在)、それから新型コロナウイルス禍でも大変ご好評いただいている作業服・用品店の「ワークマン」が918店舗(2021年8月末現在)あります。
ほかにも様々な小売店を展開しています。
私はそんなベイシアグループのベイシア流通技術研究所に所属し、主にグループIT戦略室でグループ共通のDXを担当する部署にいます。
田代 これだけ巨大なグループ企業が、どのようにDXを進めているのか。
私自身も、また視聴者のみなさんの関心もとても高いはずです。
本日は、そのあたりを根掘り葉掘りお聞きしたいと思います。
さて、私も簡単に自己紹介をさせていただきます。
2007年にランチェスターを創業し、スマホアプリの仕事に携わったのが2010年でした。
先ほどiPhone3Gのお話がありましたが、当時はちょうど3GSに切り替わり、日本国内でiPhoneが販売され始めた時期ですね。
2010年にANA(全日本空輸)のスマホアプリ、そして2013年には「無印良品」のアプリ「MUJI passport」の立ち上げを支援させていただきました。
2017年には、これまでの知見をもとにアプリマーケティングプラットフォーム「EAP」をリリース、昨年に機能を大幅に向上させ、「MGRe(メグリ)」へとリブランディングを遂げました。
私自身のバックグラウンドは、エンジニアです。
高校までは野球漬けの日々を送り、2年生のときに甲子園に出場したこともあります。
プライベートでは、釣りやキャンプなどのアウトドアレジャーが好きです。
私たちランチェスターは、「企業と顧客のより良い関係を支える」をミッションに掲げています。英語で「Make Good Relationnship」、「MGRe」の語源はそこからきています。
最後に詳しくご紹介しますが、「MGRe」はアプリマーケティングをワンストップでご支援する可能で、アプリの導入から運用、さらにその先の効果的な施策の実行までサポートさせていただいています。
特に、ECサイトなど他のシステムとの連携やカスタマイズを柔軟に行える点が強みで、「ベイシア」さまにもご利用いただいています。
ありがたいことに、前身の「EAP」をリリースした2017年以降、サービス開始から一度も解約がなく、流通業界を中心に多くの企業にご利用いただいています。
DX推進の鍵はトップダウン、経営トップの意志
グループの共通理念の下、各社の地道な施策が奏功
田代 それでは、ここから本題に入っていきます。
本日のアジェンダは、主に5点です。
・ベイシアグループのDX戦略
・顧客体験設計で重視しているポイント
・なぜアプリなのか?
・苦労した点、失敗した点
・今後の展望
まずは、「ベイシアグループのDX戦略」です。
傘下に多くの企業を抱えていらっしゃる中で、グループ全体でどのようにDX戦略を進めていらっしゃるのでしょうか。
竹永 ベイシアグループは、遡れば「いせや」というスーパーマーケットから始まった会社です。
その後、最初に「ワークマン」、次に「カインズ」「ベイシア」などと分社化していく歴史を辿ってきました。
現在も各社の本社機能のほとんどが群馬県にあり、カインズが本社を移した埼玉県、それに栃木・茨城県の北関東を中心に事業運営しているグループです。
先ほどご紹介したように、「ワークマン」は全国各地に900店超を構え、店舗数でいえば「ユニクロ」よりも多くあります。
また、「カインズ」の売上高はホームセンター市場の約10%を占め、リーディングカンパニーと言われています。
「ベイシア」は業界11〜12位くらいを行き来しています。
そのほかにも、例えばコンビニの「セーブオン」(2016年から「ローソン」のメガフランチャイジー)や電器商品を扱う「ベイシア電器」、カー用品や車検、タイヤ交換などの「オートアールズ」、物流の「アイシーカーゴ」など、数多くのグループ会社があります。
特徴的なのは、一度もM&Aを行わず、目指す理念やビジョンを独自に追求してきたことです。
さて、ベイシアグループのDX戦略についてですが、大きく変わったのは2017年頃、当時の「カインズ」の社長が「IT小売業になる」と宣言したところからすべては始まりました。
ちょうどその頃、AWS(アマゾン ウェブ サービス)が日本に入ってきた時期で、その展示会に社長を誘って参加したんです。
さらに、米サンフランシスコで開かれたソフトウェア業界の世界最大のイベント「ドリームフォース」にも参加しました。あの熱気には非常に驚きました。今でも鮮明に覚えていますね。
グループ全体でDXを推進すると言っても、傘下の会社それぞれに独自のビジョンがあるので、各社がその方針をもとに取り組んでいるのが実態です。
それでも、グループ全体で共有し、軸になっている大事な考え方があります。それは、「For the Customers」という経営理念です。
つまり、お客様のために何ができるか。創業者がずっと唱え続けてきたこの理念と言葉に基づき、グループ各社がお客様にとって望ましいDX戦略を考え、進めています。
例えば、「カインズ」は最初にECから着手し、その後も従業員用のアプリや大量の商品を管理するための在庫管理システム、また店舗やECの商品を取り置きする「カインズ ピックアップ」のサービスの導入とともに受け取り専用のロッカーを設置したりしてきました。
「ワークマン」も同様にECの構築後、購入した商品を店舗で受け取ることができるサービスを取り入れました。
一方、「ベイシア」は新たにポイントカードを導入しました。
ポイントカードは「カインズ」が2012年にいち早く導入しましたが、「ベイシア」は長く採用してきませんでした。クーポンや割引をあまり行わない会社だったんです。
だた、消費増税があって以来、集客に苦しむこともあり、今回アプリの導入でランチェスターさんにお世話になった経緯があります。
外からは一気に花開いたように見えるかもしれませんが、私たちとしては地道に、愚直に一つひとつの施策を積み上げてきた感覚が強いんです。
それが成功と評価いただいている秘訣だと思っています。
田代 お話をうかがって感じたのは、細かいところまで理解しているかどうかはさておき、経営トップの「やるんだ」という強い意志が重要だということです。
同時に、グループ全体の一貫している理念の強さです。
それぞれ個性のあるグループ企業が揃っている中で、「For the Customers」という共通の理念が軸になっているからこそ、それぞれの施策が成功するんだと思いました。
私たちはいろんな企業をご支援させていただいていますが、そうした点がDXがうまくいっている企業さまの共通点だと感じています。
竹永 こういう場合は、ボトムアップではなかなか進みません。大事なのはトップダウンなんですよ。
経営トップが決断して動かないと、きっとうまくいかないはずです。
それと、ご指摘の通り一貫した理念がないと難しい面もあると思います。
もちろん、それは時代によって捉え方を変えていく必要もありますが、各社がそれぞれ「For the Customers」を考え抜いているのが、私たちベイシアグループです。
田代 竹永さんのご指摘は、他の小売業の経営層や幹部の方々にとって、ても重要なヒントになると思います。
会員登録率97%超、定着率も85%超え
ベイシアが驚異の数値を叩き出せた理由
田代 「For the Customers」という経営理念をそれぞれの企業が実践している中で、今回は「ベイシア」さまに私たちが提供するアプリマーケティングプラットフォーム「MGRe」を導入していただきました。
いろんなデジタルツールがある中で、なぜアプリだったのか。その背景についてもお聞きできますか。
竹永 これまでの「ベイシア」の主力の販促ツールはチラシでした。印刷や新聞の折込代は、決して安くありません。
加えて、実際にお客様の手元に届き、ご覧いただけているのか。なかなか実態をつかみづらい面もあったんです。
お客様へのアンケート調査を実施すると、チラシをご覧になった方は20〜30%ほどしかいらっしゃらないことがわかりました。
ところが、だんだんとデジタルへシフトしており、デジタルならご覧になるという方が増えています。
私たちもデジタル化を進めるとともに、よりお客様に近いところで接点をつくるためには、スマホアプリが最適なのではないかと考えました。
田代 チラシに変わる顧客接点をどうつくるか。これは、リテール業界で重要な課題になっているようですね。
実際、「ベイシア」さまのアプリにはどういた機能があるのでしょうか。
竹永 ポイントの1つは、会員証を組み込んでいただいたことです。
お客様がアプリをお使いになるのは会計のときです。レジでアプリを提示し、バーコードを読み込むだけでポイントを貯めたり、使ったりできるようにしました。
それからもう1つ大きかったのは、アプリ会員限定の価格で買い物をしていただけることです。
従来のプラスチックのポイントカードと差別化するために、アプリを使った方がさらに安く購入できたり、アプリ限定のクーポンを配信したりするようにしました。
これらは決して珍しい機能ではありませんが、それでも当たり前のことを当たり前のようにやることは簡単ではありません。
他のスーパーマーケットや小売業にまずは追いつくことを大事にしてきて、今ようやく肩を並べられる状況まできました。
田代 実際に「ベイシア」さまのアプリのユーザーや利用状況のデータを調べると、驚くべき数字が出ているんです。
まずは、ユーザーは40代以上の女性がメインになっています。アプリユーザーは比較的若い世代が多い傾向がありますが、年齢層の高い方々にもかなりご利用いただいています。
しかも、アプリはダウンロードしてから会員登録していただくのがなかなか大変ですが、会員登録率も驚異の97%超えを記録しています。
さらに、インストールしてから3〜4割の方々に実際に使っていただければ及第点といえる中で、インストール3ヶ月後の定着率も85%を超えています。
これは、他になかなか事例のない珍しい現象です。
それだけではありません。
アプリはプッシュ通知をなかなか許可してもらえないという課題がある中、その許可率も76%を超えています。
つまり、ほとんどの方がダウンロードして日々お使いになり、さらにいつでも情報を受け取れる状況がつくられているんです。
田代 なぜ、そうした驚異の会員登録率などを叩き出すことができているのか。これをご覧になっている方々も、とても興味のあることだと思います。
竹永 冒頭で申し上げたように、「ベイシア」はこれまで長くポイント制度を導入してきませんでした。
ですから、「ベイシア」を長く愛用いただいているお客様は、最初は驚きに近い感覚を持たれたはずです。また、アプリについては初心者だったお客様が多かったのも実情でした。
田代 これまであまりアプリを使ったことがない方々であればなおさら、会員登録していただくハードルはとても高かったはずです。
しかも、レジの前に長い行列ができてしまうことを避ける必要もある中で、どのように登録率を高めていったのですか。
竹永 最初はとても大変でしたよ。
例えば、メール認証です。驚いたのは、そもそもご自身のメールアドレスを知らない方がいらっしゃることでした。
理由を尋ねると、購入時に携帯ショップで初期設定されたメールアドレスを、そのまま引き継いているケースが少なくありませんでした。
もう1つの手段としてSMS認証がありますが、これは1通あたり約8円と高く、コストがかかります。
ですから、なんとかメール認証をしていただきたかったんです。これには相当苦労しましたね。
そうした苦労やハードルはあったものの、会員登録が増えていったのは、アプリ会員になっていただくといろんな商品を安く購入できるメリットを感じていただけたことが大きかったですね。
「ベイシア」の商品は、本当に安いんですよ。
例えば、アプリのダウンロード時にポイントを付与するキャンペーンがよくありますよね。それで仮に200ポイントを差し上げると、それだけでも十分いろんな商品を購入いただくことができます。
しかも、「ベイシア」のアプリはバーコードを表示させればアプリ会員限定価格がすぐに反映されるようになっています。
わざわざクーポン画面を表示させたりする必要がなく、ログインした状態でレジにお並びいただければ、限定価格ですぐに購入できる仕組みになっているんです。
そんなお得感や利便性が、登録率上昇の大きなポイントの1つです。
そして、もう1つがお客様への丁寧な説明、地道な販促です。
例えば、従業員にはまず自分たちがユーザーとして使っていただくようにし、さらにユニフォームの名札などに「アプリを始めました」「安くお買い求めいただけます」などと記入してお客様の目に触れるようにしたりもしました。
決して華やかなことはしていません。地道な活動を積み重ねた結果なんです。
田代 当たり前のように見えるかもしれませんが、全体としてとても洗練されていて、様々な努力を地道に継続し、現在の状況をつくり上げてこられたことが伝わってきました。
3つのプラン、アクティブユーザーに課金モデルの「MGRe」リリース後の運用など、プロジェクト推進の支援も
田代 それでは、最後に今後の展望についておうかがいします。
アプリをはじめとするデジタル戦略について、どのような展望や期待感を持っていらっしゃいますか。
竹永 デジタルのメリットは「双方向」、それから「One to Oneマーケティング」などとよく言われます。
「One to Oneマーケティング」を徹底するのは大変な作業ですが、それでもできる限り一人ひとりのお客様のニーズに合った施策を、これからも地道にに打ち出してきたいですね。
例えば、今盛んにPRしているのが「マイ店舗登録」です。
自分のお気に入り店舗を登録していただき、該当店舗の限定クーポンやサンプル品の提供など、様々な情報をお届けしてします。ありがたいことに、これが好評なんです。
スーパーマーケットに来店されるお客様の多くは、その時点では当日の献立を決めていらっしゃらないケースが多いんです。お店で商品や価格をご覧になりながら、メニューを考えられるんです。
ですから、そうした点も踏まえながら、売場とアプリをうまく連動させ、お客様に喜んでいただけるような取り組みを今後も地道に続けていきたいですね。
田代 ありがとうございます。竹永さんのお話を通して、継続性やしっかり汗をかくこと、その中にデジタルのエッセンスを加えていくこと。
こうしたことが、「ベイシア」さまをはじめグループ全体でうまくDXを進められている重要なポイントだと思いました。
それでは、最後ににも導入いただいている私たちのアプリマーケティングプラットフォーム「MGRe」のご紹介をさせていただきたいと思います。
「MGRe」現在、様々なリテール企業さまにお使いいただいておりますが、その1つである東急ハンズさんの担当者に、以前インタビューさせていただいたときの内容をご紹介します。
インタビューでご担当者に高く評価いただいた点が、主に3つありました。
1つ目は、小売店に必要な基本的な機能が標準で揃っていること。
2つ目が、他の様々なシステムと柔軟に連携できること。
そして、3つ目がプロダクトだけでなく、プロジェクトの推進まで手厚くサポートさせていただくことができる点です。
竹永 まさに、私たちもプロジェクトの推進を手厚くサポートしていただき、本当に助かりました。
田代 いいえ、こちらこそありがとうございます。
プランは3つあり、まずはアプリを導入したい企業さまから、他のシステムと連携させるプランまでご用意しています。
また、アプリのダウンロード数ではなく、実際にご利用いただいているアクティブユーザーのみに課金させていただく料金体系を基本としています。
さらに、リリース後の運用に関しても、カスタマーサクセス部門のチームで手厚くサポートさせていただいています。
アプリは、リリースしてからの運用や施策の継続がとても重要です。現在の利用状況や、それを踏まえた効果的な運用方法を、データを用いてご支援させていただくことが可能です。
そのあたりは「人」の力でもありますが、社内にはすばらしいメンバーが揃っており、私たちはプロジェクトそのものをうまく進めることも得意としているんです。
プロダクトだけではない様々なサービスも充実させているので、これからアプリを導入されたい企業さま、もしくはリニューアルを考えている企業さまがいらしゃいましたら、ぜひお声がけいただければと思います。
それでは、本日はありがとうございました。
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