ユーザー勉強会|ビーコン・位置情報サービス編
今回は、MGReユーザー様の勉強会の模様をお届けします!
記念すべき第1回目のテーマは「ビーコン・位置情報サービス編」。
リテール業界の中でも活用が進んでいるビーコン・位置情報サービスについて、概要から具体的なサービス事例まで詳しく紹介します。
話し手
位置情報を使った機能・サービスについて
位置情報を使ったサービス「ジオフェンス」とは?
「位置情報を使ったサービス」と聞くと、最初に思い浮かぶのは「ジオフェンス」なのではないでしょうか?
ジオフェンスは、仮想的な境界線で囲まれたエリアのことを指します。緯度・経度の情報をベースに、仮想エリアを地図上に設定するという仕組みです。
この仮想エリア内にお客様が入ってきたか、つまりスマホなどの端末が出入りしたかどうか、をGPS(※1)を利用して検知します。
その信号をトリガーに、プッシュ通知など何かしらの挙動を行います。
■出典:esriジャパン「ジオフェンスとは」より抜粋
ジオフェンス自体の仕組みはOSでサポートされているので、iOSとAndroidのどちらにも機能が提供されています。
なので、自分でジオフェンスを使ったアプリを一から作成することも可能です。
一方で、アプリ向けにジオフェンスサービスを提供している会社さんもいらっしゃるので、そこで用意されているSDKを組み込むことで実装する、という方法もあります。
ジオフェンスでは、基本的にそこのエリアに「入ったかどうか」と「出たかどうか」がわかります。
なので、この情報をもとにおおよその滞在時間の算出が可能です。
これをどのくらいの頻度でチェックするかという点で、リアルタイム性が変わってきます。
例えば、チェックをする頻度が高いと正確な数値が取れる一方で、お客様の端末バッテリーを著しく消耗してしまいます。
なので、チェック頻度の高いアプリをインストールしてもらうには、ハードルが高い気がしますよね。
ただ、頻度が低いと数値の正確性に欠けてしまいます。店舗に入ったタイミングでお客様の端末にプッシュ通知を送りたいのに、店舗を出た後にプッシュ通知が届く、という事態になりかねません。
そうなると、販促として効果の見込めない施策になってしまいます。
加えて、ジオフェンスはGPSを利用します。
そのため、屋内に入ってしまうと情報の精度が落ちる可能性がとても高いので、注意が必要です。
スマホの位置情報サービスはどのように提供されている?
前提として、GPSは人工衛星の信号を遮られてしまうと機能しません。建物内に入ってしまうと、GPSからの位置情報は途絶えてしまうのです。
ただ、端末はGPSだけを使って位置情報を提供している訳ではないんですね。
例えば、Wi-FiのアクセスポイントやBluetooth、携帯電話の基地局情報を使っておおよその位置を推測したり、端末に搭載されているジャイロセンサー(※2)等を使って、向き・移動距離を算出・補正したりしています。
Googleマップの屋内マップなどが機能するのは、GPSが使えなくてもある程度補正してくれる、上記のような仕組みをうまく利用しているからです。
■出典:MGRe勉強会資料より抜粋
スマホの位置情報系サービスの現状
特にiOSにおいて、スマホの位置情報サービスというのは利用の基準が厳しくなっており、基本的には常時取得することが難しくなっています。
アプリを起動したときに「位置情報を使いますか?」というポップアップが出てきますが、「常に許可」という選択肢が出せないようになっています。
iOSの場合は「アプリの使用中は許可」「1回だけ許可」「許可しない」の3つの選択肢になっており、その後、改めて「常に許可をしますか?」というダイアログが出てくる仕組みです。
その際に選んで初めて、位置情報の常時許可が使えるようになります。
ただ、改めて「常に許可をしますか?」というダイアログが出てきた時に、許可をする方はあまりいませんよね。
例えば、某スーパーさんのアプリをMGReで作らせていただいたのですが、下の図のように、OS側が「過去3日間に位置情報バックグラウンドで22回利用しました」といったポップアップを出してきます。
■出典:MGRe勉強会資料より抜粋
その際に、「位置情報の利用を許可したままにしますか?」と聞かれたら、おそらく許可しない方が多いと思うんです。
iOSが出すプライバシー系のダイアログは、今は基本的にユーザーがオフにすることを推奨するような聞き方をしているので、位置情報に関しても近い形になっています。
結果的に、ユーザーの位置情報を常に取得するのが難しい状況です。
また、最近はバッテリー消費の問題でもアラートが出るようになっているので、位置情報を起点にプッシュ通知を送るなどの施策を実行する難易度があがっています。
なので、どうしてもまずはアプリを1度起動してもらい、その上で位置情報を使って何かサービスを提供する、というステップで施策を進めていくことが必要です。
カインズの店内マップ機能の仕組み
ここでカインズさんで行われている店内マップの事例を紹介します。
一般的なアプリでは、店内にある商品の棚位置などを見られるサービスはあるのですが、今、自分が店内のどこにいるかをマップ上に出せるサービスは、あまりありません。
なぜかというと、屋内でGPSが使えず、端末がどこにあるが分からないからです。
しかし、カインズ朝霞店の方で2023年の3月から実施されている実証実験では、店内の何ヶ所かにBluetoothのビーコンを設置しています。
ビーコンに近づくとアプリと反応して、その端末が今どこにあるかがわかる仕組みとなっています。結果、ユーザーはアプリ内で自分の位置が分かるのです。
この位置情報取得方法について、さらに具体的な仕組みを紹介します。
まず、アプリが起動するとビーコンとの通信が開始します。そこで位置の特定が始まります。
すべてのビーコンにIDが振られているので、ビーコンと通信することでマップのフロアの階数を含め、ユーザーがどこにいるかが特定可能となります。
その上で、端末のジャイロセンサーを活用して人(測位対象者)の「向き」「位置」「滞在時間」「動線」などの測位データを推測して場所を算出します。ちなみに、これはSONYさんが提供しているサービス(※3)ですね。
このように、カインズさんはGPSを使わずに店内マップの現在地を出す、という方法を実現しているんです。
■参考:日経クロステック 2023/3/7掲載「まるで「店内」Googleマップ、売り場検索アプリを試してその進化におののいた」
カインズさんの事例はひとつのやり方だとは思うのですが、屋内での位置計測に関して言うと、技術的な模索がずっと続いている状況かなと感じています。
例えば、Apple社のAirTagに使っている「UWB(※4)」という通信技術は、屋内での位置情報の計測にいいのではないかと言われています。
ただ、屋内にUWBスポットを張り巡らせる必要があるので、結構なコストがかかることやAndroidだと少し使いづらい部分もあり、普及するには決定打に欠ける、というのが現状かなと思います。
ビーコンを使った機能・サービスについて
ビーコンとは?
ビーコン(Beacon)には、もともと英語で「狼煙(のろし)」という意味があります。つまり、位置と情報を伴う伝達手段のことであり、注意を引き付けるために意図的に設けられた場所(機器)のことです。
発信機の情報を検知することで、その付近にいることが分かる仕組みで、Bluetooth、Wi-Fi、音波など、ベースとなる技術は様々です。
発信機の出す信号というのは色々なものがあるのですが、中でも一番普及したのはBluetoothなのではないでしょうか。
普及のきっかけは、Appleが「Bluetooth Low Energy(※5)」という規格を使った「iBeacon(※6)」を発表したことです。
「Bluetooth Low Energy」は名前の通り、Bluetoothよりも消費電力が低いという特徴があります。
ちなみに、Bluetooth Low EnergyはBluetoothとして規格化されているため、iPhoneだけでなくAndroidでも使用が可能です。
ただ、この仕組みで分かることは、ビーコンの発する情報を受け取ってどのビーコンの近くにいるかということのみです。
また、距離に関しては、
①すぐそばにいる
②数メートル離れたところにいる
③とても遠くにいる
の3パターンしか分かりません。
正確な距離までは分からないため、位置や距離を具体的に測る仕組みとして使うのには向いていません。
ただ、他の場所にBluetoothビーコンを置き、「いまビーコンの目の前にいるよ」などと、ざっくりと位置を把握する用途には向いている仕組みとなっています。
また、音波をベースとしたビーコンは、耳に聞こえない高音を機械から発信し、端末のマイクを使って音を受信することでビーコンの近くにいることを検知する、という仕組みです。
ここで、主なビーコン系サービスを紹介します。
■出典:MGRe勉強会資料より抜粋
一つ目は、Tangerine(タンジェリン)さんの「Store360(ストア サンロクマル)」という仕組みです。
これは、Bluetoothのビーコンを使ったサービスなのですが、アプリへの導入実績が非常に豊富です。
データ分析サービスも提供されている会社さんなので、豊富なノウハウを持っていらっしゃるのが特長ですね。
二つ目は、アドインテさんの「AIBeacon(エーアイ ビーコン)」という仕組みで、BluetoothのビーコンとWi-Fiをハイブリッドに組み合わせた形のサービスです。
最近は、リテールメディアなどにこのビーコンを組み合わせて活用していく取り組みに力を入れていらっしゃいます。
三つ目は、Ciscoさんですね。ネットワーク機器の企業なのですが、「Meraki(メラキ)」というサービスを提供しています。
Wi-Fiを使っており、Wi-Fiのアクセスポイントを3ヶ所以上捕捉できれば、それぞれの距離をもとにして位置がわかる、という仕組みです。いわゆるGPSと同じ方法ですね。
元々は企業などで、どの社員がどこにいるのかを把握するなどの用途で使われるネットワーク監視のソリューションです。
これを応用して、Wi-Fiアクセスポイントからの距離を特定するためにMerakiを導入されている会社さんがいらっしゃいます。
なので、Wi-Fiのアクセスポイントを店内に設置するタイミングで、あわせてMerakiも導入する、という話は聞いたことがありますね。
四つ目は、スイッチスマイルさんの「Pinable(ピナブル)」というサービスで、Bluetoothのビーコンを活用したマーケティングプラットフォームとなっています。
五つ目は、スマート・ソリューション・テクノロジーさんの「PitTouch(ピットタッチ)」です。先ほど少しお話しした音波ビーコンを使用したもので、耳に聞こえないレベルの高音を音波で発して、それをマイクで受け取るという仕組みです。
音波を受け取るためには、アプリの方でマイクの使用許可をしてもらう必要があります。
活用事例としては、店舗内で機器に端末をかざすとクーポンが受け取れる、という仕組みにPitTouchを組み合わせて、FeliCaのような非接触の顧客体験を提供しているものがあげられます。
最後が、unerryさんの「Beacon Bank(ビーコン バンク)」というサービスです。
交通機関や自販機などにBeaconを搭載し、街中に独自のビーコンネットワークを構築しており、これを活用することでユーザーが街中のどこにいるかが分かる、という面白いサービスを提供していらっしゃいます。
スマホのビーコン系サービスの現状
スマホのビーコンも、位置情報と同じく常時取得がかなり難しくなっている状況です。
特にiPhoneは、情報を「常に取得」というのをユーザーが最初に選択できなくなっているので、バックグラウンドで常時データを取ることが難しいという状況になってしまいます。
現段階では、アプリをインストールした後にユーザー側が常時取得を許可する設定に切り替えてくださると一番良いので、常時取得のメリットを感じてもらえるかどうか、が重要なポイントになってくるかと思います。
店舗に入ったタイミングで、まずはユーザーがアプリを起動したくなる何かしらの動機を作ってあげることが大事です。
例えば、「アプリを起動してビーコンの近くにかざすとクーポンが手に入ります」というような施策ですね。
アプリを起動してもらいさえすれば、ビーコンなどを活用してプッシュ通知などの何かしら動作が行えます。
このようなアプリの使い方を踏まえたサービス設計が、今後は重要になってくるのではないでしょうか。
さいごに
今回のユーザー勉強会では、位置情報やビーコンに関する、アプリの技術的な内容を踏まえたお話をしました!
次回は、CSVファイルの関する内容をお届け予定です😊
MGReは、数多くのリテール企業様とのお取引の中で、
・アプリを活用したマーケティング手段
・小売企業がアプリで顧客とつながるための方法
など、さまざまなノウハウを蓄積しております。
アプリ制作に関してご質問等あれば、お気軽にお問い合わせくださいね。