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激論!リテールメディアの現在と未来~スーパー/ホームセンター業界編|セミナーレポート

11月16日に、株式会社ベイシアグループソリューションズのグループソリューション戦略室室長である竹永さんをゲストに迎え、リテールメディアの現在と未来について語り合う共催セミナーを開催しました。

リテールメディアを活用するメリットや課題、そして展望は、どのようなものなのでしょうか?

話し手


田代 健太郎 代表取締役 / MGRe 新卒でSIERに入社し、R&D部門に従事。2003年株式会社メンバーズ入社。大企業のWebサイト構築にエンジニア、プロジェクトマネージャーとして従事。2007年メグリ株式会社を創業。企業のWebサイトやアプリの受託開発実績を重ね、2020年 SaaS型アプリマーケティングプラットフォーム「MGRe」のサービス提供を開始。


竹永 靖 氏
グループソリューション戦略室 室長 / 株式会社ベイシアグループソリューションズ

大学卒業後、航空会社勤務を経て、ソニーミュージック系通販小 売業を皮切りに、四半世紀にわたり小売業に従事。カタログ通販 からネット通販まで商品開発からマーケティングまで広く現場を指揮。 2010年より、株式会社カインズのWeb事業にかかわり、「オムニ チャネル化」「unified commerce」の実現に従事、EC構築、 Web事業、アプリ等全般の設計企画運用に携わる。2017年から は、売上規模1兆円を超えるベイシアカインズグループ、全社のIT 事業を管轄する、ベイシア流通技術研究所のグループIT戦略室 室長に着任。現在に至る。

リテールメディアとは?

■出典:セミナー資料より抜粋

田代:リテールメディアは、小売業者が運営する自社メディアのことです。具体的には、コンビニの店内のサイネージ(デジタル広告)、ECサイトや店舗アプリで広告を表示するシステムを指します。

リテールメディアでは、消費材メーカーなどが広告主となり、商品を宣伝します。一方、このメディアの最終的な受け手は消費者です。

リテールメディアにおいて重要なのは、リテール業者の持つデータを使った広告配信です。

特に、購入データは最も重要です。このデータには、顧客が何を購入したかを示すID-POSデータが含まれており、マーケティングにおいて極めて重要な役割を果たします。

リテールメディアの急成長とその背景

■出典:セミナー資料より抜粋

このリテールメディアが注目されるようになった背景は、アメリカでとても大きな規模になっていることです。2023年、アメリカのリテールメディアの規模はおよそ6兆円規模も達します。

主要なプレイヤーとしては、Amazonの検索窓に表示されるリスティング広告や、ウォルマートなどの大規模なECサイトが挙げられます。これらの広告が市場の大部分を占めているのが現状です。

しかし、日本では、アメリカのようなリテールメディアの広告手法をそのまま導入するのは困難であると言われています。

アメリカと日本ではマーケットの状況が異なるため、国内でリテールメディアが同じように成長するかはわかりません。

その一方で、リテールメディアの国内市場も盛り上がる可能性があるとの調査結果もあり、今後の動向が注目されています。

リテールメディアの注目が高まっている背景


■出典:セミナー資料より抜粋

リテールメディアの注目が高まっている背景には、主に3つの要因があります。

1.テクノロジーの発展と浸透

■出典:セミナー資料より抜粋

昨今はAIを中心に、テクノロジーは大きく発展しています。また、ノーコードでプログラムを作れるサービスも増えており、エンジニアでなくてもプログラムに触れることができます。

このようなテクノロジーの発展・浸透によって、リテールメディアを実現する土壌が作りやすいというのが、リテールメディアが注目されている要因の一つです。

2.購買のオンライン化

■出典:セミナー資料より抜粋

2つ目は、購買のオンライン化です。特にコロナショック以降、オンラインで購入する人が増えています。

日本国内では、店舗購買が依然として主流であることから、これらのデータを活用し、顧客に特化したメディアをどのように構築するかが、重要な課題となっています。

3.サードパーティークッキーの規制

■出典:セミナー資料より抜粋

現在、マーケティング業界では、サードパーティークッキーの使用が重要な議論のトピックとなっています。

特に、リターゲティング広告においてこれらのクッキーがどのように使用されていたかは、多くの専門家が認識しているでしょう。

これらのサードパーティークッキーは徐々に使用が制限されており、企業は自社で保有するデータを基にした広告戦略の重要性が高まっています。

現在注目されているのはファーストパーティーデータです。特にリテール業界では、ID-POSの形で大量のファーストパーティーデータを保有しており、これらのデータを効果的に活用することが新たなトレンドとなっています。

また、購買行動のオンライン化やクッキー規制の背景を踏まえると、リテールメディアの価値と重要性が高まっています。国内での成功事例はまだ多くないかもしれませんが、注目度は高まっていることが背景にあります。

リテールメディアが注目されるポイント

■出典:セミナー資料より抜粋

リテールメディアが注目されるポイントを、運営企業、生活者、利用企業の3者の観点からそれぞれ解説します。

  1. 運営企業(小売企業)

    • 従来の商品販売に加えて、広告を通じた収益が得られます。

    • 商品の売り上げに広告収入が加わることで、新たな収益機会が生まれます。

  2. 広告を配信するメーカー

    • サードパーティクッキーの規制に対応し、リテールメディアが提供するデータを活用することで、より精密なターゲティングが可能に。

    • 商品購入の計測が可能になり、広告の成果を具体的に把握できるようになります。

  3. 生活者

    • データの活用により、個人の興味・関心に合った商品やコンテンツが提供されます。

    • 新商品の多様性の中で、自分に合った商品と出会う機会が増えます。

リテールメディアには、このように各関係者にメリットがあるとされています。

トークセッション

■出典:セミナー資料より抜粋

竹永さん:現在のリテール業界、特にベイシアグループの状況と直面している課題についてお話しします。

私たちの業界にはリテール企業とメーカーが存在し、その関係は複雑です。田代さんが先に触れたように、私たちリテール業界はメーカーと顧客の間の橋渡し役を果たしています。

この関係を理解するためには、ターゲット市場の規模を海、湖、沼、池といった比喩で表現してみましょう。

メーカーはできるだけ広い市場、つまり「海」のような規模を望みます。これは、テレビCMや雑誌広告などのマスメディアを通じて実現されます。

対照的に、多くのリテール企業、例えばベイシアやカインズ、ワークマンは、より限定的な地域市場に焦点を当てています。

ベイシアは約140店舗を北関東地域に集中して運営しています。このため、私たちの議論はより小さな「湖」や「沼」のレベルになりがちです。

この市場規模の違いにより、メーカーとリテール業界の間にはしばしば感覚のズレが生じます。リテール側としては、できるだけ市場を拡大し、「海」のような広がりを目指していますが、現実には限定的な地域に焦点を当てざるを得ません。

このような状況を踏まえて、私たちはメーカーとのコミュニケーションにおいて、誤解が生じないよう慎重に対応しています。私たちの目標は、メーカーと効果的に連携し、お互いの市場理解を深めることです。

しかし、最近は湖や池などの話題にも注目が集まっています。これは、時々登場する極地的なヒット商品に関連しています。

リテールメディアの観点からは、大手企業のような「海」の話題ではなく、より限定的な「湖」レベルの話題に焦点を当てる必要があると考えています。メーカー側は、以前に比べてこのようなニッチな市場に関心を示しています。

田代:そうですよね。メーカー、特にブランド側から見れば、できる限り多くの人に自社の製品を認知してもらうことが重要です。しかし、現実には、ドミナントな展開を見せるエリアが限られているため、消費者のニーズと提供できる製品との間にギャップが生じていると考えられます。

加えて、プロモーションを行っている商品が実際に店舗にあるのかも、リテールメディアを運営する上で大きな課題だと思うのですが、実際にメーカーと会話をする上で、このような課題が話題にあがることはあるのでしょうか?

竹永さん:それは基本中の基本です。「メディアで宣伝された商品をわざわざ買いに来て在庫がない」という状況は顧客の失望を招くため、これは避けるべきです。

そのためにもリテールメディアで商品をプロモーションする場合、基本的に大量の在庫を抱えることが前提です。欠品が発生することは考慮されていません。

田代:メーカー側では営業側とブランド側のコミュニケーションがうまくいっておらず、情報が十分に共有されていないことがあると思います。リテールメディアを展開しようとすると、メーカー側の変革も必要になると思うのですが、この点についてはいかがでしょうか?

竹永氏:そうですね。メーカーは通常、取引企業に対して年間の広告費や販促費を割り当てています。この予算は、チラシの広告スペース料金や、特定期間の価格割引などに充てられることが多いです。

しかし、リテールメディアの場合、そうした広告費や販促費からは予算が下りず、ブランド戦略やマーケティング予算からの資金提供が必要になるかもしれません。

リテールメディアは、従来の広告手法と異なるアプローチが求められる分野であり、新しい資金配分や戦略が必要になると考えられます。

田代:仰るとおり、リテールメディアのビジネス成功には、ブランドからの予算獲得が重要な要素だと思います。

ただ、今のお話を聞いている限り、ブランド側が「海」を求めている一方で、メーカー側は「湖」を求めているような、トラフィックの認識にに乖離がある状況も生じることがあると思います。

このような場合に解決策として、例えば北関東を含む関東地域の複数スーパーマーケットとの連合を組むというような話が実現する可能性はありますか?

竹永さん:ちょっと想像つかないですね。例えば、スーパーマーケットは、全国展開しているような大規模店を除き、特定の地域に根付いた経営展開を行うのが一般的です。

そうなってくると、地域にある他のスーパーマーケットや、これからその地域に参入して来ようとする企業は競合にあたりますから、連合を組んでデータを共有するという話には、抵抗感を示すのではないでしょうか。

田代:なるほど。連合の話と少し離れてしまうかもしれませんが、例えば、カテゴリーや購買単価を上げるという話になった場合、一定の商品を買っている人が、より高い価格の商品を買っていただくようなコミュニケーションができるかもしれません。そこは、利害が一致すると思いました。

竹永さん:それはあります。例えば、購入金額が一定以上に達すると、ポイント比率を増やすようなサービスを提供しているメーカーもあります。

この試みには、他の商品も購入してもらうことは、もっと多くの商品を購入してもらうという考えと合致するので、おっしゃるようにそれはあると思います。

田代:ただ、お客さんからすると、一つのメーカーのみから、商品を購入し続けるのは難しいですよね。

商品の在庫やメーカーさんと仕事をする上で、今話にでた話題以外に課題はありますか?

竹永さん:小売業の大きな課題の一つは、店舗のスペースが限られていることです。このため、多くの小売店は1年を通じて52週間の計画を立てます。この計画に基づいて、ほとんどの場合、棚割りが一年間固定されます。

しかしながら、まれに特定の商品を特別に取り扱いたいという要望が生じることがあります。これには商品部との綿密な調整が必要になり、大きな小売店ほどその調整は複雑になります。

また、リテール業界では、外部の企業とのID交換を通じて新しい収益を生み出すことがあります。これは一見良い戦略に聞こえますが、多くの人は小売業を純粋に「小売」として捉える傾向があります。

例えば、ウォルマートやホーム・デポのような大手小売店は、このような戦略を大規模な予算で実行していますが、日本のマーケットは比較的小規模なため、より基本的な「販売」に焦点を当てるべきだという意見もあります。

その結果、店舗の棚が足りなくなることがあり、商品が在庫にはあるものの店頭には出ていない、という状況が生じることがあります。これは避けなければならない問題です。

田代:なるほど。店舗の限られたスペースの中でどの商品を展示するかという選択は、非常に複雑な思惑が絡んで来るでしょうし、ハードルが高いですよね。

竹永さん:高いですね。既に決まっているスペースや予算に対し、思わぬ横やりが入ることも考慮しなければなりません。

こうなると、スペースや既存の枠組を超えるような、ちょっとこう発明が必要になって来るのではないでしょうか。

■出典:セミナー資料より抜粋

竹永さん:外から見て綺麗に見えるのは、九州に本社を置くとある会社です。彼らの青い看板は印象的です。

私はその会社の担当者と何度か話をする機会がありました。彼らは今年、NRFに出展しており、カート、棚札、メディア部分を組み合わせた製品を海外市場に売り込む戦略を取っているようです。日本発の企業としては誇らしい一方で、戦略がどこまで成功したのかは気になるところです。

実際にその店舗を訪れたことがあります。特に印象的だったのは、おじいちゃんが貯金としてカードを使っている光景です。年金が入ったら、そのカードに貯金するという習慣が染みついているのではないでしょうか。とはいえ、この出来事の中で、リテールメディアの必要性については、疑問を感じるところではあります。

リテールメディアが介入する余地としては、、デジタルサイネージやアプリだけでなく、レシートの下部やチラシなどですね。これらは私たちが媒体として持っている要素となります。

以前私が勤めていた会社では、あるコンビニチェーンがリテールメディアが注目される前から商社と提携していました。

このコンビニでは、入り口の看板やレシートの裏面、さらにはATM機能を備えたチケット発券機などがあり、これらのメディアスペースを利用して映画やテレビ番組とタイアップした広告を展開していました。

これらの広告スペースはすべて、その商社が管理し、特に映画関連の宣伝が多かったです。1週間限定で店内のテレビ画面や放送を使って、特定の映画やテレビ番組を集中的に宣伝するキャンペーンを行っていました。

私はこの会社で雑誌部門の編集長を務めていたこともあり、このようなキャンペーンを頻繁に実施していました。

このようなキャンペーンは効果的で、売上が実際に上がったかどうか、どのような顧客が商品を購入したかといったデータを分析し、その結果を商社や他の関係者に報告することもありました。

失敗事例について話すと、たとえば先ほどの海と池、または湖に関する認識を共有しきれなかったケースが挙げられます。

テレビCM、雑誌広告、新聞のチラシなど、これらの媒体での宣伝が難しくなっています。

そこで、Webメディアに注目する企業も多いですが、フォロワーを増やすためや公式アカウントを作るなど、かなりの時間と労力が必要です。

より効果的な方法として、小売業者との提携を考えることがよくあります。これは非常に理にかなっていますが、彼らが期待するのは、大規模な「海のような」市場に関することです。

しかし、私たちが現在扱っているのは、「湖のような」より小規模な市場です。この異なる規模の市場をどのように合わせるかが、最初の大きな課題だと感じています。

田代:ありがとうございます。先ほどの話は、単にリテール業界の話にとどまらず、メディア化や収益化の可能性についても含んでいるのかなと思います。

一方で、リテールメディアが広告収益から離れた場合、来店頻度や勾配単価の向上といったリテール業界の目標にどう影響するかが重要です。ここでのデータ活用や新しい販促戦略がリテールメディアの一部となる可能性があります。

少し観点が変わってしまうのですが、内外問わず、デジタルを用いた販促戦略に関する成功事例や失敗事例についてご存じでしょうか?

竹永さん:カインズとベイシアを例に挙げます。2社は自社アプリに注力しており、特に会員サービスを強化しています。例として、カインズの「ポケットレジ」は顧客がレジに並ばずに自分で会計できるサービスです。これにより、顧客はより迅速に買い物を終えることが可能です。

また、これらの企業はアプリで収集したデータをメーカーに提供していることもあり、会員になることの利便性を強調しています。

ベイシアはアプリを通じた会員化に力を入れており、これが最も重要なコミュニケーション手段であると考えています。アプリは紙媒体よりもはるかにコストが低く、価格に敏感な顧客にとって魅力的です。

例えば、サラダオイルを特価で提供した際、1日に何万人もの顧客が会員化するほどです。

価格に敏感な顧客へのアプローチとして、スマートフォンなどの端末を活用することが、我々の努力の一環です。

メーカーはこの戦略を聞き、ターゲットとなる顧客層に直接プッシュ通知を送りたいと考えています。これは特に、特定のブランド製品を使用している顧客をターゲットにしたい場合に顕著です。

私たちがメディアとしての機能を果たすようになると、多くのメーカーがこの機会を利用しようとします。

この時、私たちは海ではなく湖や池の話をすることが重要だと説明しています。これは、地域レベルでの成功が最終的にはより大きな市場につながるという意味です。

実際に、この戦略により一部の地域では購買率が上昇しており、これが良い事例となっています。

田代:現在のリテール業界では、多くの企業がデジタル化を進めています。これにより、従来の販促活動が変化し、将来に向けた新しい可能性が開かれていると感じました。

特に、デジタル化によってターゲティングが精密化され、誰にどのように情報を配信するかという点が改善されています。これは、ブランドやメーカーにとっても、予算の効率的な配分につながります。

さらに、アプリの開発や顧客との継続的なコミュニケーションに注力している企業は、将来に向けて有利な立場に立つことができます。

つまり、地道な努力と顧客との関係構築が、長期的な成功に繋がるというように、今のお話からは感じました。

竹永さん:以前の小売業界では、メーカーが何とかしてくれると考えていました。小売業者はメーカーに金銭的なサポートを求めることが一般的だったと思います。しかし、現在はそうではありません。

小売業者は顧客に積極的に接近し、彼らとのコミュニケーションを重視しなければなりません。これによって、自社のメディアプレゼンスを高める必要があります。これは店舗やECにも当てはまります。

リテールメディアの真骨頂は、このようにして顧客を育て、その後に商品を販売することにあります。例えば、ウォールマートはユーザー数が多いために成功しているわけです。

カインズ、ベイシアも、これらを踏まえた上で別のメディアプロジェクトにも取り組んでいます。

コロナ禍の間に、カインズは多くのメディアで取り上げられ、その商品が広く目にされるようになりました。ベイシアも同様に、独自の商品をニュースで紹介されることが多いです。

こうしたメディアを通じて、私たちは顧客を集め、アプリの利用を促進し、顧客とメーカーとの対話を可能にしています。

田代:そうですよね。リテール業界において、直接広告収益を目指すよりも、まずはアナログからデジタルへの販促活動に注力することで、将来的には広告収益が生まれる可能性があると思います。

デジタルメディアで成果が出れば、結果として本業も向上するでしょう。ですので、重要なのはまず自社のデジタルメディアをしっかりと育てるということですね。

竹永さん:私たちは基本的に小売業です。小売業の主な目的は、商品を売って売上を上げ、利益を得ることです。しかし、それに加えて、広告やデータの販売から収入を得ることも可能です。

重要なのは、どの戦略を先に取るかということです。多くの小売業者が取り組んでいるのは、売上を増やすためにより多くの顧客を店に呼び込むことです。これは、来店頻度を高める戦略です。私たちはこの本質的な部分にしっかりと取り組むことが大切だと考えています。

田代:次の質問に移らせてください。先ほどの話に戻りますが、あるメーカーは、その製品やサービスを大規模に宣伝したいと考えています。これは、海のように広い範囲をカバーする広告戦略を指しているかもしれません。

しかし、一方で、彼らはより個別化された、特定のターゲットに焦点を当てたアプローチも求めています。

これは、特定の種類の魚がいる特別な池や沼のような、より狭くて深い市場セグメントを意味しているかもしれません。釣りを楽しむ人なら、このような特定の場所での釣りの重要性を理解できるでしょう。

つまり、リテールメディアと一言で言っても、単なる認知度の向上だけではなく、特別な顧客層や特別な情報を求めていることもあるかもしれない、という理解であっていますか?

竹永さん:そうですね。まず、メーカーといっても大手全国メーカーと地域限定のメーカーに分かれます。

また、ジャンルに関しては、幅広いジャンルを扱うメーカーと、特定の1ジャンルに特化しているメーカーが存在します。

これらの違いにより、各メーカーの考え方にも違いがあります。その結果、メーカーは特定の領域での専門性を深めることを目指すことが多いです。

さらに、メディアの育成が重要であり、どのような顧客とどれだけ深く関連付けるかがメディアの価値を決める要素になると考えられます。この考え方は、大手マスメディアとも共通しています。

例えば、テレビ局ではNHKやフジテレビなどがあり、それぞれがドラマや報道などの分野で強みを持っています。このようにメディアも、特定の番組やコンテンツに焦点を当てることで、その方向性を決定しています。

そのような考え方に近いですね。

田代:なるほど。まずはそのような観点で、自社のそのメディアやお客様をリテール側が捉え直すことがスタートになるかもしれませんね。

竹永さん:リテールビジネスにおいては、自社の強みを明確にすることが重要です。たとえば、カインズのような店舗では、群馬県に住む犬の飼い主の多くが利用しているといった特定の顧客層をターゲットにすることができます。

実際に、群馬県で犬を飼っている人の多くが、カインズで買い物をしていると考えられます。また、ベイシアの場合は、群馬県でお豆腐を購入する人の多くが利用している可能性があります。

これはあくまでたとえ話ですが、このように特定の商品や顧客層に焦点を当てることで、リテールビジネスは自社の強みをアピールできるのです。

田代:ここに重要なヒントがある気がしますね。ありがとうございます。

■出典:セミナー資料より抜粋

田代:最後にお伺いします。国内での今後の活用や将来の展望について、竹中さんはどのように考えていますか?

竹永さん:最近、サードパーティーによる追跡と、それに基づくパーソナライズされた広告について考える機会がありました。

広告に追跡されることは不快に感じる一方で、一部の人々は「覚えていてくれてありがとう」と感じるかもしれません。

このようなパーソナライズは、1to1のマーケティングを実現するために不可欠です。たとえば、あるシャンプーを購入したら、同じシャンプーや関連するリンスの広告が表示されることは理解できます。

しかし、パーソナライズの難しい面もあります。例えば、じゃがいも、玉ねぎ、ニンジン、豚肉を買ったとして、次に何を買うかを予測するのは難しいです。シチュールー、カレールー、味噌など、選択肢は多岐にわたります。

このように、リテール業界における1対1のアプローチは非常に複雑であり、どこまでパーソナライズを進めるべきかは難しい問題です。

田代:そうですね、デジタル的な精度が上がってくにしても、残念ながら、全ての情報が繋がるわけではありません。

例えば他のホームセンターで見ていたものをカインズで買ってしまったっていうことは、誰にも特定ができないので、テクノロジーだけではなくて、やっぱりデータが繋がらない点は、課題としてはあるかもしれないですね。

竹永さん:もう少しAI技術が進歩すれば、これも変わってくるかもしれませんが、現段階ではそこまでたどり着いてはいません。

田代:そうですね。このテクノロジーの未来をもっとポジティブに捉える視点もありますよね。例えば、スーパーマーケットが互いにデータを共有するようなことができると、より良い未来が実現するかもしれません。

竹永さん:もし地域が重複していなければ、そういった協力は可能かもしれません。異なる地域でのデータ共有は実現可能ですね。

しかし、地域が重複している場合は問題が生じる可能性があります。例えば、カインズの商品が九州のグッティというホームセンターで販売されているケースがあります。

これはプライベートブランド商品を売る際の一例です。どちらの商品がよく売れるかについて、カインズはデータを受け取ることになります。

田代:異なるエリアでも、異なる商品を扱う企業間でデータの共有が行われることはあります。

どの地域を訪れているかによって、データの内容が変わることもあります。特にベイシアでは、顧客が来店する前にどこを訪れていたかを分析していますよね。

竹永さん:私たちは、顧客が他の場所から来店する前後の動きを追跡しています。これには、携帯電話のGPSデータが使われています。

もちろん、GPSデータから個々の顧客を特定することはできません。それでも、どのような顧客層が多いかという傾向は分析できます。

この情報をもとに、どのような売り場を配置すれば顧客がより長く滞在してくれるかを検討しています。

例えば、ファストフード店やクリーニングサービスが人気です。これらの店舗の動向を分析し、それぞれがどのように機能しているかを見ています。

田代:データの活用について、メディアに限らず、さまざまな分野で連携し、私たち消費者の生活体験がより快適になっていくといいですね。

竹永さん:そうですね。確かに、商品の欠品やサービスの問題は深刻な課題です。これらを解決し、顧客がスムーズに、かつ迅速に買い物できる体験を提供することが、顧客にとっての幸せな体験となります。

デジタル技術を活用し、メーカーと協力して、このような体験を実現することが、リテールメディアの成功の鍵はないでしょうか。

まとめ

今回はリテールメディアを導入するメリットや課題、将来性など様々な観点についてのセッションが行われました。リテールメディアの導入や運用について悩んでいましたら、ぜひ当社にお問い合わせください!😊