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セミナーレポート|「顧客とつながるデジタルコミュニケーション、ファン育成の鍵とは」<吉野家>

2023年6月7日 (水)に、【グッデイ】【吉野家】【エイチ・ツー・オー リテイリング】の皆さまをお招きし、「顧客とつながるためのデジタルコミュニケーション」について、トークセッション形式でお届けしました!

今回は、【吉野家】様のセッションをお届けします。

株式会社吉野家ホールディングズ
牛丼を主力商品とする日本の大手外食チェーンストア。ホールディングス全体で、国内外を含め2,742店舗を展開する。(2023年5月時点)


登壇者


株式会社吉野家CMO、株式会社グリッドCEO
公益財団法人日本スポーツ協会ブランド戦略委員会委員
ベンチャー投資家 ​田中 安人 氏


HR、IR、経営戦略、海外戦略、マーケティング、スポーツマーケティング、ベンチャー投資家、アドバタイジング・エージェンシー/パートナー等幅広い経験から多くの企業のCMO歴任。 JSPOフェアプレイ委員会選考委員長/中期計画 2023-2027 策定プロジェクト委員/帝京大学ラグビー部OB会初代幹事長歴任、NewsPicks ProPicker、講演多数。 特徴はビジネス界とスポーツ界の両方で組織の“言動一致”を構造化し未来設計をすることで強い組織をつくること。


エンバーポイント株式会社 
CEO 神⾕ 勇樹 氏

東京大学工学部卒、東京大学大学院工学系研究科修了。ボストン・コンサルティング・グループ、グリー、すかいらーく、PKSHA Technologyを経てリノシスを起業。グリーではKPIモニタリングの仕組みの構築やビッグデータ分析チームの立上げなどにより業績拡大に貢献。すかいらーくではデータ分析チームを立上げ、マーケティングのROI改善や事業機会の特定/強化を中心に担当。モバイルアプリの責任者としてオンラインマーケティング領域強化も推進。2020年11月、「顧客接点のラストワンマイルにおける総合的な支援」を掲げるエンバーポイント株式会社のCEOに就任。

記事のポイント

  • DXが成功している企業の特徴は、ミッション・ビジョンを実現するためにデジタルを手段として捉えている点である

  • 吉野家は、【For The people】の経営理念から、デジタルを手段にして人が人らしく働くための労働負荷軽減を目指している

  • 【C&C(クッキング&コンフォート)】をコンセプトに、シニアの方や女性も働きやすい店舗モデルを拡大し、新たな顧客層を獲得

  • データを可視化したことで、明確な指標がきちんと数字として見えるようになった。データを施策として活かすには、自社の経営理念や戦略に基づいた分析や判断が必要

  • 新商品や商品評価にリピート率とトライアル率の指標を導入し、経験・勘・度胸のマーケティングをアップデート

  • 企画を考える時、データだけに頼ることなく、お客様が求めている便益とは何なのか、そのブランドらしさとは何なのかを、最後は人間の五感で判断することがとても大事

トークセッション


トークテーマ①:「『ひと』が『ひと』らしく働ける」、吉野家流デジタル活用とは?

神谷さん「昨今、DX(※1)が流行っていますが、デジタルは手段でしかありません。本質的に大切なことは、【従業員】対【お客様】であったりと、【人】対【人】の関わりです。

吉野家様は、人が人らしく働くためには何が必要なのか、デジタルもデジタル外も含めて、あらゆる施策を実施しています。本日は、施策の一部を、ぜひ皆さまにご紹介できればと思います。」

田中さん「本題に入る前に、DXで成功している企業についてご紹介します。外食産業で成功されているCTOクラスへ実際に取材したところ、ミッション・ビジョンを実現するためにデジタルを手段としているところが成功していることが分かりました。

吉野家の経営理念は『For the People』です。そのため、人が人らしく働けるという点が、吉野家流デジタル活用になります。」

※1 DX:Digital Transformation(デジタル トランスフォーメーション)の略で、企業がAI・ビッグデータ・IoTといったデジタルの技術を用い、業務改善や新ビジネスの創出、レガシーシステムからの脱却などを行うことを指す。

吉野家の進化①:C&Cモデル

■出典:田中様×神谷様講演スライド

田中さん「今、レストランは人型とロボット型の戦いになると言われています。ロボットレストランは人件費がかかりません。かつ、チェーン店より個店の方で力を発揮するのではないか、と言われています。

一方で、吉野家は『For the People』が経営理念なので、デジタルが全面に出るというよりも、【人が働きやすくなるために、人が全面に出る裏側でデジタルを活用する】という方針をとっています。

具体的には、今、吉野家は積極的に【C&C(クッキング&コンフォート)】モデルを拡大しています。ごゆっくりしていただくというコンセプトで、カウンターだけでなくテーブルを増やしています。注文された商品も、お客様自身で席まで持っていっていただくセルフサービスの形になっています。

従来の吉野家は、オーダーから商品の提供、お会計まで、すべてフルサービスでした。実は、フルサービスっていうのは高級レストランと同じサービスなんですね。そのため、動線が長く、歩数が多いためサービス提供に時間がかかります。
第1部でのグッデイさんのお話でもありましたが(※2)、動線が長く、歩数が多い飲食店は多い。そうなると、これから労働人口が少なくなったときに、シニアの方や女性が働きづらくなってしまいます。今までの外食産業は、重たい物を高いところに運ぶなど当たり前で、店舗が男性目線の設計になっていたんです。

※2 第1部:グッデイさんとのトークセッションはこちらからご覧ください!
(グッデイさんのレポートが公開完了したら、リンクを差し込みます)

このような労働負荷を軽減するため、重たいものをあまり持たなくていいような設計が【C&C(クッキング&コンフォート)】の裏側にはあります。
加えて、お客様に感動体験を提供するコンセプトのものを、今後多く出していく予定です。

なので、【お客様の感動体験+従業員の労働負荷軽減】という点を、まず店舗で実現したいと思っています。」

吉野家の進化②:改装効果

■出典:田中様×神谷様講演スライド

田中さん「上記の図は、Tポイントさんのデータで、吉野家の顧客属性を示したものです。吉野家の顧客は、男性:7割、女性:3割という比率です。一般的な店舗は、35~60歳の方がメインの顧客なのですが、C&C(クッキング&コンフォート)の店舗では10代の若年層や女性層が結構使ってくださっています。

また、図にも記載の通り、改装によって売上も上がっているのです。お客様に【ごゆっくりしていただく】というコンセプトのもと、例えば、充電器のコンセントやWi-Fiを設置することで環境を整えています。

結果、売上も好調になり従業員の労働負荷軽減にもつながる、という取り組みを行っています。」

吉野家の進化③:低投資タイプの実装

■出典:田中様×神谷様講演スライド

田中さん「現在は、注文を店頭のタブレットでできるようなっており、各テーブルにもタブレットを設置しています。

実は、この施策に行きつくまで結構いろいろな実験をしました。当初、お客様にとってタブレットは使いづらいのではないかと思っていましたが、実際にはタブレット使用率が高かったり、頼みやすいのかタブレットの方が単価が高くなったりという結果が。顧客の動向が、デジタル化によって分かるようになってきました

また、60代くらいの方でもタブレットを使いこなしていることも分かりました。このようなデータも実際に出ており、数字にも表れていますね。」


吉野家の進化④:デジタル活用

■出典:田中様×神谷様講演スライド

田中さん「アプリにおける事前注文や事前決済は、結構な売上のシェアを獲得しており、現金を使わないお客様も増えているんですよね。
このようなデジタル活用の背景のひとつとして、コロナ禍における非接触への取り組みが進んだこともあげられます。
タブレット注文や事前オーダーのニーズは増え、テイクアウトの需要も急激に上がっています。事前決済・注文をすれば、非接触で購買を完結できるため、こういった需要をきっかけとしてデジタル使用率は急速な向上を見せています。

コロナをきっかけに、生活様式が変わったなという実感があります。コロナ前に戻ろうということではなく、新しい顧客導線やお客様の動き方が、デジタルのデータからよく見えてきたなと感じています。

今までのお話をもう1回整理すると、【For The people】の経営理念から、人が人らしく働くための労働負荷軽減が目的です。そのために、デジタルを手段にして独自の方法を考え、いろいろな実験を実施しています。

そのために、いろいろな実験を実施しています。例えば、すかいらーくさんが実施しているようなロボットに商品を運んでもらう施策も実はやっていたり。これは、ロボットレストランにするという訳ではなく、あくまで人が人らしく働きやすいようにするための実験のひとつです。結果、例えばシニアの方でも働きやすい環境になるだろうなと思っています。」

神谷さん「ありがとうございます。【人が人らしく】という部分を分かりやすくご説明いただきました。
冒頭で、色々な外食産業に従事するCTOクラスの方々とディスカッションしながら、というお話があったかと思うのですが、具体的にはDXを進めていく過程や優先度の決め方などを伺えますか?
というのも、使える技術などあらゆる手段がある中で、DXの進め方が分からないという方も多いかと思いまして…。」

田中さん「はい、ありがとうございます。
実は、弊社も現在の状態に辿り着くまでに約6年かかっているんですね。ここ最近のお話としては、2023年の3月1日に【デジタル推進室】という部署を作りました。理由としてはふたつあって、ひとつめはデジタル関連の専門家が必要不可欠な段階に来たということです。ふたつめは、私達自身のITリテラシーを上げないといけないと感じたからです。
というのも、色々な企業のCTOの方とお話をする中で、企業にとっての登山は富士山なのかもしれないが、企業ごとに登るルートが違うということが明確に分かりました。そういう意味では、吉野家は富士山でいうとほんの一合目にも登っていない状況だと思っています。

例えば、商品マスターやデータベースを操作するのは相当大変です。アメリカであれば社員を全員エンジニアにすることで解決、というやり方もありますが、日本だとなかなか難しいのが現状です。そんな中で、やはり自分たちのITリテラシーを上げる必要があるのかなと感じますね。
なので、人のITリテラシーを上げつつ、システム面ではAPIを繋げてデータを溜めて…というやり方が1番大事なのかなと思います。

現状、データ自体は本当にたくさん溜めました。しかし、データをどうアウトプットするかを明確にしないと、結局データもゴミになってしまいますよね。たくさん取ったデータを日々見続けていると、ある時に分析結果が導かれることがあります。
まずはデータを、吉野家のキャッチコピーである【うまい、やすい、はやい】の基準で判断し、次にこれが【For The people】として人の労働負荷軽減になるか、という判断基準で分析します。
施策の結果をひとつずつ上記の判断基準で分析し、会社の緊急課題・ROIも含めてどういった戦略で行くか、というのを今まさしく議論している最中です。
なので、ここからさらに吉野家らしさというものを出していかないと、生き残れないなと思っています。

神谷さん「なるほど、ありがとうございます。まさに【うまい、やすい、はやい】からぶれず、いろいろな施策を筋通して施策を生み出しているんですね。」

トークテーマ②:2016年より導入したTポイントと、そこから見えてきた顧客データ、その活用法

神谷さん「Tポイントさんのデータというところで、ID-POS(※3)としてデータの可視化をされていると思うのですが、どのように進めましたか?
また、その可視化されたデータの活用方法を伺えればと思います。」

※3 ID-POS:買い物客を識別するための顧客IDが基づいたデータのことで、商品情報のみを収集できるPOSと違い、顧客のリアルな購買データを収集することが可能。

田中さん「はい。私たちは、4年間あらゆる施策を実施した結果を、下記の写真のようにデータ抽出によりグラフ化・図式化しています。かつては、戦略分析をKKD(K:経験、K:勘、D:度胸)によって行っていたのですが、今ではデータドリブンとなりました。

■出典:田中様×神谷様講演スライド
※情報保護の観点より、画像にモザイクをかけております

今まで経験・勘・度胸で実施していたことをデータをもとに改めて分析したら、結果は同じになることもよくあります。しかし、そこには【データとして明確な指標がきちんとある】という大きな違いがあります。

吉野家の進化⑤:商品価値の向上

■出典:田中様×神谷様講演スライド

過去のデータ蓄積での結果、例えば先ほどの【うまい、やすい、はやい】に基づいて自分たちの評価をすると、牛丼に続く主力商品として唐揚げを生み出すことができました

今年、吉野家は創業124年目なのですが、極論を言うと牛丼一杯で124年生きてきています。しかし、今後は牛丼に次ぐ第2の柱を作りたいと思い、唐揚げを導入しています。まだ約700店舗でしか提供できていないのですが、これからは全店舗で提供できるように準備を進めています。
唐揚げを選択できたのも、十分なデータがあったからですね。ただ単に経験と勘と度胸ではなく、今の世の中のトレンドで何が売れているのか、吉野家のオペレーションで実現できるのか、といったところをデータで分析しました。

また、導入当初は提供までに約8分かかっていたんですよね。しかし、【うまい、やすい、はやい】の吉野家なので、約2分30秒で提供できるようスピードを追求しました。結果、本当に吉野家にとって大事な柱となったんです。

吉野家の進化⑥:マーケティング戦略

■出典:田中様×神谷様講演スライド

上の図にもあるように、お客様の新商品や商品評価の指標として、【CORE × MORE】というのがとても大事だと思っています。COREとはリピート率のことで、MOREとは新しい利用シーンを提供することです。これらの掛け合わせによって、お客様に対する感動体験を増やそうと考えています。

商品のリピート率やトライアル率の指標を決め、ある一定以上の数字にならなかったら市場に導入しない、という内容を数値化していました。
過去は、本当に経験・勘・度胸が判断基準となっていたので、もちろん打率も悪かったです。

指標化することによって、蓄積された勘とデータをもとに打率を上げていっています。
さらに、EC部門の売上が好調だったのもあり、吉野家の利用シーンを増やすチャネルに力を入れようと思っています。また、実験段階ではありますが、吉野家以外の店舗で牛丼を売れるような仕組みを整える取り組みもあります。

さらに来店動機の強化のため、新しい商品開発を【CORE × MORE】の指標でチャレンジしています。これは、Tポイントさんと2016年から一緒に始めて、データを蓄積する1年、データを分析する1年、商品開発に生かせるようになるのに約3年かかりました。
それが今、いろいろな手法を使うことによってキャンペーンのROIが見えたり、どういう媒体が費用対効果が高いかが分かったり、今まで見えなかったことがすべて可視化されはじめるようになりました。結果、十分なデータを蓄積することができました。

しかし、ここで一番大事なのは、そのデータをゴミにするのか、戦略的なデータにするかという点です。意味のあるデータになるよう【うまい、はやい、やすい】の判断基準で、施策を明確に決めています。

さらに言うと、吉野家らしい商品でなければ、お客様は支持してくださいません。キャンペーンも商品もすべてそうなのですが、最終的には【吉野家らしいかどうか】という人間の思考がとても大事だったりするんです。
もちろん大前提として、データがありますよ。データをずっと見ていると、お客様の思考が見えてきます。
どういうタイミングで商品がヒットするか、というのがデータに表れるんですよね。ただ、データに対して忠実な施策であれば成功するかというと、そうではありません。そこに、吉野家らしさをどう加えるかが大切です。これは、人間の五感ですよね。人間の五感を頼りに、吉野家らしさをどう入れていくかが重要だということを、データから学びました。

また、吉野家はファストフード店において朝食メニューを日本で最初に始めたのですが、なかなかブレイクしなかったんです。ただ、ランチ需要は非常にあったので、朝に来店したお客様が夜に再来店するとお得に食べられる、というキャンペーンをデータをもとに明確に設計して成功させました

■出典:田中様×神谷様講演スライド

データで明らかになったのが、朝に来店してくださるお客様は、吉野家のロイヤルユーザーだということ。
ロイヤルユーザーの方々に、さらに来店したい思ってもらえる商品や施策を打つことが重要だと思います。

実は、この企画のための商品開発の際、発売ギリギリまでRIZAPさんが監修した【ライザップサラダ】を商品名として考えていたんです。ここに牛肉は入っていませんでした。
ただ、牛肉の入っていないライザップサラダは吉野家っぽくないよね、ということになりまして…。やっぱり吉野家に来てくれる方は、美味しいお肉をお腹いっぱい食べたい方であり、それを提供するのが吉野家の務めだろうと。
そのため、最後の最後に企画のPR原稿を書いた際には、RIZAPサラダに牛肉を入れた方がいいのではないか、と提案しましたね。結果、ライザップ牛サラダは満足感もありつつワンコインで食べられる高タンパク低糖質の商品がポイントとなり、ヒットしました。

■出典:田中様×神谷様講演スライド

企画を考える時はデータを見ると思うのですが、どうしてもデータばかり見ていると【木を見て森を見ず】という状態になってしまいます。
ここでお伝えしたいのは、お客様が求めている便益とは何なのかを、最後の最後には人間の五感で判断することが重要だということです。」

神谷さん「ありがとうございます。まさに今のお話は重要ですよね。
私も、データ活用周りなどをご支援させていただいく中で、昨今はクロス集計でのグラフや機械学習による様々なデータがあるのを実感しています。しかし、そこから再施策に落とす商品や販促を考える際には、最後には何か解釈をしなくてはいけない、と感じています。【データ】というものは、完全に左脳の世界だと思うのですが、実はそこに右脳が必要なのではないか、というのがありまして。
吉野家様の先ほどのお話でいうと、【たっぷり食べたい】というニーズがある中で、具体的に何が食べたいのかというデータはありません。しかし、そこには確実にアンメットニーズ(※4)があります。
ただ、アンメットニーズは、ニーズを満たす適切な商品がなければ満たされないので、データを眺めるだけでは解決できないものです。

吉野家様は、具体的にどういうデータを見られて【牛肉を入れた方がよい】という解釈をされたのでしょうか?」

※4 アンメットニーズ:顧客にとってまだ満たされていないニーズ(潜在ニーズ)のこと。

田中さん「そういう意味でいうと、外食ってメーカーと違って実験がやりやすいんですよね。例えば、新商品を発売する場合など、最初は10店舗で実験ができたりします。

先ほどご紹介した企画の中のひとつ、W定食は特にそうなのですが、お客様にとっての吉野家の便益は、【美味しいお肉をお腹いっぱい】なんだろうと。

というのも、データで見ると大盛はわりと売上が大きいんです。ということは、牛肉の増量というのはニーズがある、という仮説ができます。
さらに言うと、若い世代の人にもっと来ていただきたいと考えたときに、ご飯の大盛を無料にすれば、低コストで集客できるかもしれないという仮説がありました。
だったら、お肉いっぱいかつご飯の大盛を無料にするのがよい、という仮説が立ったんです。結果、大ヒットだったんですね。

なので、まずはデータを見た際の仮説の立て方がとても重要です。
他店に行くよりもご飯の大盛が無料だから吉野家にしよう、という差別化につながりますよね。
吉野家らしさでありお客様の一番の便益である、【美味しいお肉をお腹いっぱい】という点にもマッチしており、成功しました。やはりお客様にとって自社の便益が何か、そこから紐解いて仮説を持ち、データを見ながら仮説を確立できた点が勝因だと思います。」

神谷さん「なるほど、ありがとうございます。
やはりデータなどの考える材料があって、それを元に仮説・検証・振り返りという流れが非常に重要だということですね。」

田中さん「はい、その通りです。
加えて、リピート率・トライアル率という指標を作っています。トライアル率は高いがリピート率が低い商品は全国販売できないんですよね。つまり、見せ方がよかったために買われるケースですね。
ただ、リピートされる商品というのは地力があるという証明になるので、リピート率という指標を設定したことが重要だったと思います。」

神谷さん「そうですね。私もかつて同じような話があったのですが、やはり販売数で見てしまうとリピート数が見えないんですよね。
基本的に、一定の期間でどれくらい売れれば正解というお話になりがちで…。ただ、売れていてもアンチを作ってしまう商品はあるので、商品を購入されれた方の満足度やリピートの有無など、非常に重要だなと改めて感じました。」

トークテーマ③:顧客を理解しデジタルでいかに理想的な商売をするか、最新の取り組み事例

神谷さん「理想的な商売をデジタルで実施していくにあたって、最新の取り組み事例を教えてください。」

田中さん「下の表をご参考ください。こちら、日本で初めてだと思うのですが、収集したデータと電通さんのデータをくっつけたものです。どのCMを見ている人が吉野家の売上を作っているか、のヒートマップなんですよね。
今までのテレビCMって、ゴールデンタイムとされる19時~21時の単価が高いんですよね。

■出典:田中様×神谷様講演スライド
※情報保護の観点より、画像にモザイクをかけております

この取り組みから、ゴールデンタイム以外の時間の方が吉野家ユーザーの方がCMを見て売上を作ってくださっていることが分かったんです。ならば、そこに発注すればいいじゃない、というすごいシンプルな発想が出てきました。

今までは、視聴率というものと売上の相関が取れませんでした。
しかし、約5年前に未来のテレビCMの発注はダイナミックプライシング(※5)になるだろうという仮説を持ったことで、誰がどのテレビCM枠を見てお店に来ているのか、というのが分かるようになりました。

つまり、今まではデータ突合できないだろうと思っていた領域でもデータ突合ができるようになったんです。
さらに、今後はここにデジタル広告もくっつけようと考えています。

デジタルといえばスマホ、DXといえば店舗DXと考えがちですが、ここで伝えたいのは、暗黒大陸と思われているテレビというフィールドでもDXはできるんですよ、ということですね。」

※5 ダイナミックプライシング:商品の需要と供給のバランスによって、価格を変動させる手法のこと。


トークテーマ④:吉野家が考える「お客様と共創し、ファンになっていただく」方法

神谷さん「どんなブランドさんも、やはりお客様にファンになっていただくことが究極の目標です。中でも、吉野家様はファンになっていただくために【お客様と共創し】という部分がポイントかと思いますので、この辺りをご紹介いただけますか?」

田中さん「はい。私たちは、お客様と共に創る(=共創:co-creation)という部分を心得ています。
吉野家は年間、約2億食をお客様へ提供しており、認知調査をすると99%の認知度があるブランドなんです。ただ、売れるときって、やっぱりお客様と共創しているときなんですよね。

事例を紹介すると、吉野家が超特盛を発売しました。それに対し、小盛も結構なニーズがあったので発売をしました。
そうしたら、超特盛も売れたのですが、それ以上に小盛の方が売れたんですね。
女性やシニアの男性などは、ちょっとご飯が多い、というご意見が前々からのアンケート調査から分かっていました。さらに言うと、下の画像にあるように、吉野家ファンの芸能人の方って結構たくさんいらっしゃるんですよね。

■出典:田中様×神谷様講演スライド

こんな素晴らしいファンの方と何か企画ができないかな、というところから【俺の吉野家】を作りました。
実は、マニアの方って、自分なりの食べ方があるんですよね。なので、それをヒアリングして商品化したこともあります。本当の吉野家のファンの方と共に企画を進めることで成功した事例ですね。

加えて、現在はアプリでIP(※6)とタイアップイベントを実施しています。例えば、ウルトラマンだとシニアの方、男塾だと牛丼ファンの方との親和性が高かったです。

※6 IP:Intellectual Property(知的財産)の略。漫画・アニメ・キャラクターなどの著作物を指すことが多い。

■出典:田中様×神谷様講演スライド

あとは、【牛ポ】という牛丼ポイントがあるのですが、来たら来ただけ特典や商品がもらえるというキャンペーンを実施しています。これは、毎回タイアップするIPを変えながらやっているんです。
意図としては、ファン層が違う新規層を獲得したいからです。かつ、ここにしかない付加価値を提供したいと思っています。
もちろんどんなIPでもいいかというとそうではなく、吉野家と親和性があるという点をとても大切にしています。
先ほどの吉野家らしさのお話にも通じるのですが、吉野家との親和性がある時にしかお客様は来店しない、というのがデータからも明確に出ているんですよね。ここでいう親和性と何かと言ったら、吉野家としてのストーリー性や付加価値、または作家の先生が吉野家が大好きだった、などです。

親和性がないと、絶対に成功しないんですよね。
なので、作家先生と一緒に作るという意味のときもあれば、ファンの方のアンケートをもとに進めていくケースもあります。

もうひとつ事例ですが、5年ほど前に【外食戦隊 ニクレンジャー】という企画を実施しました。競合となっている松屋さん、モスバーガーさん、ガストさんなどと一緒に、デジタル上で企画を実施したんですよね。

■出典:田中様×神谷様講演スライド

そうすると、俳優の山田孝之さんが【こういうことがクリエーションなんだよね】と言ってくださって。
さらにJTBの作詞家の方が歌を作ってくださり、テレビでも大放映されました。そして、最終的には講談社で絵本が作られたんですね。
結果、広告換算で10億円分ぐらいの効果獲得ができました。

ファンの方が口コミをしたくなるような企画というのを、常に考えています。なので、どういうファンの方がどんなエンゲージメントになっており、どんなコンテンツを求めているか、というのをずっとデータから模索しています。

お客様は、外食産業同士で戦ってほしいなんて、思っていませんよね。お客様の、とにかく安全安心なものが食べたい、という部分に本企画の親和性があったと思います。
あと、松屋さんと吉野家はとても仲が良いので、エイプリルフールに吉野家は松屋さんの、松屋さんは吉野家の牛丼写真をつけてつぶやいたら、ものすごい反響がありました。

ここからも、お客様は戦ってくれなんて思ってもないことが分かりますよね。仲がいいという部分を共有すると、どんどんお客様のエンゲージメントが上がるんですよね。

また、別のエイプリルフールに【これから吉野家は鶏丼屋になります】とつぶやいたら、ものすごくエンゲージメントが上がりました。
データでは、ファンの方のエンゲージメントを追っていますが、最後の最後は、お客様が口コミをしたくなる内容か?という部分を意識しています。
なので、吉野家ファンのエンゲージメントをデータを通して理解し、最後にひとつエッセンスを加える、ということを丁寧にやっています。」

神谷さん「はい、大変面白いお話をありがとうございました。多くの事例をお話いただきましたが、特に、超特盛と小盛のキャンペーンのところで、食材自体は何も変えずにお客様のニーズを拡大している部分がすごいと感じました。
また、アプリでのタイアップキャンペーンに関しても、新規顧客を取っていくためにいろいろな取り組みをされていますよね。
どういったきっかけで、このような販促手段を思いつくのでしょうか?こういったアイディアに着想するための刺激剤みたいなのがあれば教えてください。」

田中さん「アプリのタイアップキャンペーンに関してですが、世の中のコンテンツについているファン層のデータというのを独自に作りました。そのファンの方々が吉野家を好きかどうかというのも、さまざまな独自の角度で作っています。
IP交渉なども、企画はすべて社内で考えています。もちろん社外の方にお手伝いいただくこともありますが、ビッグコンテンツであっても最後には吉野家と親和性があるか、親和性のあるようなアレンジができるか、という点を徹底的に議論しています。その結果、もちろん失敗することもあります。
ただ、やはり重要なのは自社らしいアレンジができるか、というこだわりです。でないと、差別化のない同じようなものが世の中にあふれるだけとなり、ヒットはしません。

前半でもお話した通り、吉野家は最後に【うまい、やすい、はやい】を判断軸にしています。このように、各社の判断基準が必ずあるはずなんです。
そこでまず、各社の判断軸をもとに企画などの最終判断をしてください。そして、自社らしいアレンジをデータをもとに自分たちで考えて実施してください。これがすべてだと思います。」

神谷さん「なるほど、ありがとうございます。やはり会社ごとの経営理念やカラー、その会社らしさというのが判断基準になってきますよね。
今回、いろいろなトークテーマがありましたが、実は最初から最後までこれが共通した内容だったかなと思います。
このそれぞれの会社らしさが、販促や商品だったりに反映されていくのかなと感じました。
本当に、本日は様々なお話をありがとうございました。」

田中さん「はい、本日はありがとうございました。」


最後に

今回は、『顧客とつながるデジタルコミュニケーション、ファン育成の鍵とは』をテーマに、吉野家様とのトークセッションをお届けしました。

MGReは、数多くのリテール企業様とのお取引の中で、詳細なノウハウを蓄積しております。
アプリ制作に関してご質問等あれば、お気軽にお問い合わせくださいね。


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